日銀の追加金融緩和をどう評価すべきか?
10月31日(金)、日銀は金融政策決定会合で追加の金融緩和を決めた。今回の決定については、金融政策決定会合に於いて政策委員の意見は割れ賛成5反対4のギリギリの判断であったようである。
しかし、市場ではほとんどの関係者が予測をしていなかったこと、更に2日前に米国FRBがリーマンショク後(2008年9月)に始めた量的緩和を完全に終了したことのタイミングと重なり、市場は大きく反応し世界中にサプライズを与え、日本の金融緩和であるにもかかわらず、世界中の株価を押し上げたのである。一方、日本の市場に潤沢なマネーが供給されることになることから円安も急激に進んだのである。
10月31日(金)、午後の株価そして為替の推移が如何に急激なものであったかは下記のグラフを参照すれば一目瞭然である。
しからば何故このタイミングでこれだけの追加金融緩和を行わなければならなかったのかの背景を探って見ると、今年の4月に行われた消費税増税後の景気回復であるが、4~6月は増税前の駆け込み需要により落ち込むと予測されていたが、その落ち込みが予想より大きく年率換算でGDP-7%を越す値となったこと。
更に7~9月には追加の経済対策の効果が現れ、ある程度回復基調に戻ると見込んでいたのであるが、冷夏という天候不順に加えて数度の台風襲来による景気の足踏み、即ちアベノミクスが踊り場に差し掛かり消費者物価指数も1%台半ばで停滞し、このままでは
「2年程度で2%の物価目標を達成する」 というシナリオが崩れ始め出していたのである。
こうした経済の足踏み状態を脱却して、再びアベノミクスに力を与え景気を刺激し、物価上昇目標を正規の軌道に戻そうとしたのである。
所が、金融緩和には副作用がつきもので、急激な円安が進みその副作用が懸念されるのである。現在の経済構造では円安が輸出拡大(国内所得の拡大)に結びつかず、物価を上昇させるのみで、結果として実質賃金に下押し圧力がかかることが懸念されるのである。
また、現在の日本の金融緩和レベルは、GDP比でみると日本が7割、米国2割強、欧州1割強、と日本が突出しているため、量的緩和を手じまう時のハードルが高くなるのである。
今回の金融緩和を実施するのかどうかについては、上述した副作用を懸念し、政策委員の間で意見が割れ、賛成5、反対4、となったものと推測する。現在の日銀総裁黒田東彦氏は、名うてのリフレ派であり、副作用を恐れず追加の金融緩和をリードして今回の実現になったと理解している。
ここで思い起こされるのが、リーマンショック後の日銀の対応であった。当時の総裁白川方明氏はリフレ派ではなく、リーマンショック後米国が大幅な金融緩和を実施したにも拘わらず日銀は動かなかった(事なかれ主義を貫いた)為、経済の実態を反映しない超円高が約5年間も続き日本経済は瀕死の状態に陥ったのである。
この超円高を克服するため、日本企業は国内生産を諦め、こぞって海外へ工場を移したのである。この時の影響が現在も残り、円安が進んでも日本に工場が少ないため輸出にドライブがかからず、貿易収支は赤字を継続しているのである。
結論として、副作用を恐れるがあまり、日銀が今回の追加緩和を行わなかった場合を想定してみると、アベノミクスは増税後の景気下振れから脱却することなく、ダラダラと下降線を下り続けるのではないかと思われる。しかし、今回の緩和により、株価が押し上げられ資産効果が生み出されたことにより、景気の一本調子の下りに対して、ストップをかけるクッション的役割を果たしたのではないかと思っている。従い、今回の追加緩和は大いに評価できるものと思っている。副作用の一つである輸出にドライブがかからない問題については円安が定着することにより徐々に改善されて行くものと思っている。
景気の下り坂に対して、日銀がストップをかける役割を果たしたのであるから、これからの景気回復に対しては政府側がアベノミクスの3本目の矢である、規制緩和を実行し民間投資を喚起する成長戦略を確実に推進して行くことが求められるのである。TPP交渉もアベノミクスを推進するキーであることから早期の妥結を望むものである。
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