安倍首相 「米上下両院での演説」 を聞いての感想
4月30日未明、安倍首相は米議会の上下両院合同会議(両院の議員が一同に集まる)で演説を行った。上下両院の合同会議で日本の首相が演説を行うのは初めてであった。過去、日本の総理としては、岸信介首相、池田勇人首相が演説を行っているが上下両院合同議会ではなかった。
日本の首相としての演説は、池田勇人首相以来の54年振ぶりとなるものであった。2006年小泉首相の訪米時に上下両院合同会議での演説の案が浮上していたが、米議会で小泉氏の靖国神社参拝を問題視する声が出て実現しなかった。
安倍首相も2013年12月26日、突然靖国神社を参拝し、各国から痛烈な批判を受けた。同盟国である米国からさえも「失望」の意を表明されたのである。この件は、2013年12月27日発行のブログ
「安倍首相の靖国神社参拝は自殺行為である」 (文字をクリックすると繋がる)でも述べている。
今回の上下両院合同会議での演説への招請は、靖国神社参拝を乗り越えての招請であったのである。と言うことは、安倍首相が賭ける日米同盟に対する非常に強い意欲が米議会に伝わり、靖国参拝問題を乗り越えさせたのであると解釈するべきと感じたのである。しかし、靖国神社参拝問題は決して解決したわけではないことを肝に銘ずるべきである。
今回の米国訪問時、安倍首相は演説に先立って、アーリントン国立墓地を訪れている。この墓地は、政教分離の観点から特定の宗教形式を押し付けず、信仰の自由を保障しているのである。この墓地は1896年に築かれ、戦没者やテロ犠牲者などのアメリカ合衆国のために尽くした人達の墓地となっている。
アーリントン国立墓地への参拝は、各国の指導者達が訪れているが何の問題も起きていない。所が、靖国神社となると各国の指導者は誰一人として訪問していない。日本の元首である天皇ですら1975年11月を最後に訪れていないのである。
何が違うのか?先日(4月26日)、NHKスペシャルで
「戦後70年・ニッポンの肖像、日本人と象徴天皇」 を放送していた。1978年A級戦犯が靖国神社に合祀された。この後、昭和天皇は靖国神社参拝を止めたのである。昭和天皇自身では、明確に理由を述べていないが、1986年8月15日に詠んだ歌がある、それは 「この年の この日にもまた 靖国の みやしろのこと うれいはふかし」 である。この歌の中の
“うれい” とは何か当時の侍従長は、「A級戦犯の問題です」と明言している。天皇は、A級戦犯が合祀されたことに対して、「禍根を残す」 とも発言していたのである。
以後、天皇家としては一切靖国神社へ参拝していないのである。こういういきさつであるにも拘わらず、国会議員の一部の人々は、大手を振って参拝を続けているのである。参拝の事実がテレビで放映される度に、私はまた茶番劇が始まったという冷めた目で見ているのである。これの解決策は、上記のブログの中で述べているので此処では述べない。
前置きが長くなったが、本題の安倍首相の演説に戻る。演説は、英語で行われたが、これは非常に良かったと思う。日本語で行うべきであると指摘する識者もいるが、これには賛成しない。日本語で行えば、通訳が入るため時間が倍に伸びる。45分の演説であれば、90分以上になり冗長さを感じさせることになる。
英語で、一語一語ゆっくり噛みしめるような発音での演説であり、聞いている人も内容が良く理解出来、リアルタイムで反応が返って来ていた。聞いていて感動する場面では、立ち上がって拍手するスタンディングオベーションが実に14回も行われたのである。そして、拍手だけだと35回にも及んだのである。
演説の内容は、米国人の胸を打つ巧みな言葉がふんだんにちりばめられた内容で有り、安倍首相の意図をうまく演説としてまとめ上げられているなと感じた。スピーチライターは誰であるのか知らないが、苦心がにじみ出た、非常に素晴らしい内容であった。
第二次世界大戦に対する反省については、「痛切な反省を胸に、歩みを刻みました。自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの点についての思いは、歴代首相と全く変わるものではありません。」
とさらりと述べていた。事前に中韓が求めた、「侵略」とか「謝罪」とかいう文言は一切使用していなかったが、歴代首相の思いを全て受け継ぐと述べているので、これで充分であると受け止められたのではないかと感じた。後のコメントで中韓は常套句のように反省が不十分であると言っているのであるが。
今回の演説で、安倍首相のグローバルな物の見方・考え方が良く伝わったと思う。特に、「国際協調主義にもとづく、積極平和主義」、更に法の支配、人権、自由を尊ぶ、価値観を共有すること等が理解され、一時は「歴史修正主義者」というレッテルを貼られていたが、その疑いも晴れたのではないかと感じた。その証拠が、演説が終わってから、多数の米議員から相次いで握手を求められていたことである。
安倍首相の米国議会での演説は成功裏に終わったが、日米間に横たわる問題は、まだまだ山積しているのである。TPP交渉の早期妥結決着、沖縄普天間基地名護市辺野古への移設、そして今回約束した安全保障法制関連の法案成立、等々である。これらの課題を、先頭に立って解決して行くべき、真のリーダーシップを発揮して欲しいと願う次第である。
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